
歯はなぜまとめて治療しないのかと疑問に思われる方もおられるでしょう。歯科医院では予約制を導入していることが多く、都合をつけて通院しても、数分で処置が終わり不満に思われるケースがあります。なぜまとめて治療しないのかという問いに対して、体への安全性が真っ先に挙げられます。
歯科治療はなぜ一度にまとめて行わないのか?
歯の治療はなぜまとめてしないのかについて、身体への負担や保険の制度、生活への配慮によります。痛みやしみなどの自覚症状があり歯科医院へ通院して、初めてむし歯や歯周病が複数本あると診断されることがあります。長い時間を取って全部治してしまえば早いのでは?と考えがちですが、歯科治療には患者さんの安全性や治療の精度を高めるため、あえて複数回に分けて行う理由があります。
人体にとって歯は小さな器官ですが、神経や血管が集中しており全身とも密接に関わる組織です。そのため、精密な治療を行わなければなりません。
身体への負担を減らすための配慮
歯科治療を長時間、連続で行うと身体や精神に大きな負担がかかります。
- 口を開け続けることによる顎や筋肉の疲労
- 長時間の緊張によるストレスや血圧変動
- 麻酔薬の使用量増加による身体的負担
このようなリスクを避けるために、短時間で区切った治療が一般的に採用されています。特に高齢の方や持病がある方には安全性を第一にした配慮が不可欠です。
保険の制度
歯科治療が一度で完結せず、何度も通院が必要となるのは、保険診療のルールも大きく関係しています。保険診療には細かい規定があり、そのルールに沿って治療を進める以上、1回の通院でできる範囲が限られてしまうのです。できるだけ多くの人に公平に医療を提供する目的があるため、決して歯科医院が不必要に通院回数を増やして利益を得ようとしているわけではありません。
歯石取りを例に考えてみよう
スケーリングと呼ばれる歯石取りを例にしてみます。歯石を取る処置でなぜ数回に分けて通わなければいけないのかと疑問に思う方も多いでしょう。実際には、保険のルールに基づき、次のような流れで進めることになっています。
- まずは歯ぐきから上の見える部分の縁上(えんじょう)歯石を除去する
- その後、歯ぐきの状態がどのように変化したかを検査する
- 必要に応じて、歯ぐきの中に隠れた縁下(えんか)歯石を取り除く
歯周病が進行している場合や着色が多い場合には、上下顎2回に分けて行います。縁上歯石に比べ、縁下歯石は直接歯石が見えず歯に強固にこびりついているため、1度に行う歯の量は4〜6本になります。このように、治療の進め方そのものが保険の規定で決められているため、自然と数回の通院が必要になるのです。
患者さんの生活への配慮
歯科治療を複数回に分けることは、実は患者さんの生活スタイルにも配慮されています。
- 忙しい方でも短時間で受診しやすい
- 治療後の痛みや違和感に対応しやすい
- 計画的に通うことで口腔ケアの習慣がつきやすい
定期的に歯科へ通うことで むし歯や歯周病の再発予防にもつながります。治療をきっかけに予防ケアの意識を高められるのも、段階的な治療の大きなメリットです。
治療内容によって時間がかかる理由
歯科治療は一見小さな作業のように見えても、非常に精密さが求められます。
治療項目 | 主な流れ | ポイント |
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むし歯治療 |
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根管治療 |
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義歯・被せ物 |
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麻酔や薬の影響を考慮する必要性
複数の歯を一度に治療すると、それだけ麻酔の使用量も増加します。麻酔薬には投与できる安全な上限があり、超えてしまうと副作用や合併症のリスクが高まります。
また、抗生物質や鎮痛薬の処方も、治療の範囲に応じて調整が必要です。まとめて行うと薬の影響が強く出てしまうリスクもあるため、適切にコントロールするには段階的な治療計画が不可欠です。
経過観察が必要なケースとは?
歯科治療は削ったり詰めたりしたら終わりではなく、治療の効果や予後を確認する時間が必要なケースがあります。
- 神経を残す治療をした場合→痛みや違和感が改善するか経過を観察
- 歯周病治療→炎症が落ち着いてから次のステップへ進む
- 根管治療→感染の有無を確認し、次回以降に充填
こうした段階的なステップを踏むことで、トラブルを最小限にし、治療の成功率を高められます。まとめて治療すると経過を確認するタイミングを失うため、後戻りや再治療が必要になるリスクがあります。
忙しくて何度も通えないケースは?
何度もクリニックへ足を運ぶ時間がないという方は、短期集中治療が向いています。短期集中治療とは、通常は数回に分けて行う歯科治療を、できるだけ少ない通院回数で集中的に進める方法です。仕事・育児、留学・出張などで通院時間を取りにくい方や、歯科恐怖症の方など、短期間でまとめて治したいに選ばれます。
特徴
- 1回の診療時間を長めに確保し、複数本や複数部位をまとめて治療
- 保険適用外の自費治療で行われることが多い
- 最新の設備や麻酔管理を活用し、安全に長時間の治療を可能にする
メリット
- 通院回数を減らせる
- 短期間で治療を終えられる
- 忙しい人でも治療が完了しやすい
- 何度も強い不安や緊張を感じず、短期間で終えた方が安心できる
注意点
- 身体への負担が大きいため、全身状態や持病の有無を確認する必要がある
- 保険診療のルールでは難しい場合が多く、自費診療になることが多い
- 治療内容によっては複数回に分けた方が安全・確実なこともある
短期集中治療で使用する麻酔
笑気麻酔や静脈内鎮静法を使用し、短期集中治療をするため、麻酔専門医がいる歯科医院で行うと安全です。
笑気麻酔
酸素に亜酸化窒素を混ぜたガスを鼻から吸入して、心身を落ち着かせるための吸入麻酔法です。意識がなくなることはなく、不安や恐怖心を和らげる鎮静効果と、痛みを感じにくくする軽い鎮痛効果があります。
静脈内鎮静法
鎮静薬を点滴から少しずつ体内に入れ、1〜3分ほどで意識がぼんやりして眠気を感じる状態になります。全身麻酔のように完全に意識がなくなるわけではなく、治療中も呼びかけに反応でき、会話や意思表示も可能です。多くの方はうたた寝をしているような心地よい感覚と表現します。
体への負担が大きいため、必ず全身状態や持病の有無を事前に確認することが重要です。丁寧なカウンセリングと治療説明を行われるかどうかなどで、短期集中治療を希望される際は、クリニックを見極めましょう。ちなみに、当院でも短期集中治療を行っております。
まとめ

歯をなぜまとめて治療しないのかについては、安全性・精度・経過観察・生活への配慮です。身体や精神への負担を軽減して精密な作業を確実に行い、麻酔や薬の使用を安全にコントロールし、経過観察で治療の質を高め、通院を通じて予防ケアの習慣を根づかせる必要があります。どうしても時間が取れない患者さんを除き、歯科治療を複数回に分けて行うのは決して非効率ではなく、むしろ患者さんの安全と満足度を最優先にした選択と言えます。